中性子源

中性子源の開発と照射場に混在する
複雑な放射線量のコントロール

BNCT用中性子源

 現状のBNCTは熱外中性子照射を基本としています。我が国においてBNCT用の中性子源として現在利用されている装置は写真1、2に示す京大原子炉実験所の研究用原子炉(KUR)重水照射システムとサイクロトロン加速器システムのみです。原子炉と加速器は共に発生中性子を熱外中性子に変換するための減速体系を備えています。この体系により形成された熱外中性子エネルギー分布を図3に示します。熱外中性子のエネルギー範囲は中性子の放射線荷重係数を考慮して0.5eV~40keVとされています。これまでKUR共同利用医療グループは原子炉中性子を用い500症例を超えるBNCTを行いその有用性を確認し、その汎用を実現するため、BNCT用加速器中性子源を開発しました。その医療的認可を受けるため2012年10月より再発悪性神経膠腫についての治験を開始、2014年春には、放射線治療歴を有する切除不能な局所再発頭頸部がん(扁平上皮がん)又は切除不能な局所進行頭頸部がん(非扁平上皮がん)の治験を開始しました。図27

照射場と体内線量分布

 BNCT用熱外中性子照射場を構成する放射線は発生中性子線由来の速中性子線、熱外中性子線、熱中性子線と減速体系中で核反応によって生成されたガンマ線です。さらに水ファントム中の主な放射線は、入射放射線に加えてファントム中で発生する反跳陽子線、反跳酸素線と主に1H(n,γ)2H反応によるガンマ線です。ホウ素薬剤の点滴を受けた人体内では、上記の放射線に10B由来のα線と7Li線、窒素や体液中の塩化ナトリウム等の人体構成元素と中性子の反応によるガンマ線が加わります。

 下記、図4に熱外中性子が水ファントム中で減速され熱化したものの分布を示します。これはKUR重水照射設備の熱外中性子モード照射で観測されたものです。熱中性子フラックスのピーク深度は約2.5cmです。このピーク領域の大きさは直径約5.5cmで減速コリメータ直径の約半分となっています。熱外中性子の入射方向の広がりとファントム内での減速過程での散乱による広がりが他の放射線治療で使用されているものに比較して大きいことに注目して下さい。これがBNCTのPTV(がんの三次元的画像情報にがんの進展度予測、体動や照射野の曖昧さなどを加味した照射計画用のがんの体積)におけるマージンの取り方を規定する要因となります。

 下記、図5に付与線量・線量分布計画により計算された30ppm10B 濃度でのがん組織内の10B 線量、窒素線量、水素線量、ガンマ線線量とこれらの和(全線量)の深部線量分布を示します。この条件で10B線量は全体の約85%です。この割合は照射野内で均一でないことにも注目する必要があります。

 BNCTの品質を保証するためには以上のようにたいへん複雑な放射線構成を把握し、それぞれの放射線の正確な線量評価と線量対効果曲線の計測が求められます。現在まだ実現されていませんが体内の10B(n, α)7Li や14N(n, p)14C反応分布のリアルタイム測定は最も重要な測定課題です。図27

(大阪府政策企画部ホームページ「BNCT研究会」パンフレットを参考に作成しました。オリジナルは、http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku/bnct/