ホウ素薬剤

ホウ素を選択的にがん細胞に集積させる
高性能ホウ素薬剤の開発

10B-ホウ素元素と高純度10B-濃縮ホウ素の製造

図11 ホウ素(硼素,ボロン:boron)は、原子番号5番、周期表の第2周期、13属に位置する元素で、岩石、地下水や地表水、植物にはホウ酸として広く存在していますが、人体中には存在しません。天然ホウ素元素には、質量数10(10B)と質量数11(11B)の2つの同位体が存在し、その存在比率は、約1:4で、熱中性子を吸収(捕捉)することができるのは10B-ホウ素元素だけです。したがって、BNCTに用いるホウ素薬剤の製造には、原料となる高純度の10B-ホウ素元素(10B-濃縮ホウ素)が必要です。現在、天然ホウ素化合物中の10Bと11Bを選り分け、高濃縮の10B-ホウ素を製造するプラントを持ち、大量供給できるのは、日本、米国など数カ国の企業に限られています。また、これらの高濃縮10B-ホウ素を原料に用いて、医薬品品質のホウ素化合物が日本、チェコなどで製造されています。

BNCT用高純度ホウ素化合物

【1】10B-ホウ素薬剤に求められる性質とホウ素化合物

 BNCT用ホウ素薬剤には、主に次のような性質が求められます。

がん細胞に選択的{がん組織/正常組織比(T/N)比 > 3以上}、且つ、多量(10B-ホウ素濃度20~40 ppm) に集積すること

それ自身は薬効を持たず、ホウ素送達分子としての機能のみを有すること(通常の医薬とは大きく異なる性質)

代謝を受けることなく、一定時間がん組織に滞留すること

血中に直接投与するため低毒性であること

などです。これらの他に、疎水性/親水性のバランスや1分子中のホウ素元素の占有率などの重要性が、これまでの研究から指摘されています。現在、BNCTの臨床研究には、前述のアミノ酸構造を持つBPAとクラスター構造を持つBSHの2つのホウ素化合物が用いられています。

【2】新規な10B--ホウ素薬剤の開発動向

図22 効果的な新規ホウ素薬剤の開発を目的に、種々のホウ素化合物の合成が報告されています。その多くは、がん細胞親和性分子を10B-ホウ素元素で修飾した化合物です。また、がん組織の毛細血管間隙の粗さを標的としたリポソーム、ナノミセル、エマルジョン等を利用するDDS(薬剤送達システム)などの研究も活発に行われています。